かたすみの読書記録

読んだ本の感想記録(少女小説多め)。ときめきと自分の『好き』を探したい。

廃墟の片隅で春の詩を歌え/仲村つばき

一年のほとんどを雪に覆われる国、イルバス。

ベルトラム王朝は、民衆の革命により崩れた。親や兄弟は処刑され、残された三人の王女は散り散りになる。そして、末姫アデールは極寒の地、廃墟の塔に幽閉された。

月日は流れ、雪解けの日の朝。慎ましく暮らしていたアデールのもとに、長女・ジルダの使いだという青年が現れる。

王族としての誇り、ベルトラムの血統。国の再起を願い、波乱の人生の幕が上がろうとしていた。


今月、オレンジ文庫版下巻が発売するこのシリーズ。紙版も購入予定ですが、その前に積んでいたコバルトオリジナル電子版の3冊を読む事にしました。

とても面白かった!!

続きが気になって一気に読んでしまいました。

母親や姉達に大人しくしているようにと言われ続けた事や、革命による親族の死によって心を殺して生きてきた為、周囲の顔色を伺い、おどおととした印象のアデール。

しかし、逆向に陥った時、本来の彼女が姿を表す。はっきりと意見を述べ、前を見始める彼女がかっこよくて。

勿論、姉王女達も魅力的。

冴え冴えとした美貌を持ち、女王として立つ事を誰よりも望み、采配する長女ジルダ。赤い髪の外見と同じく恋に燃え、国を追われた事の激情を保ち続ける次女ミリアム。

愚鈍なアデールに苛立ちつつも、姉妹だから情はあって、子供の頃の時のようにはいかない。

そんな複雑な感情が、単純に嫌な人じゃなくて、こっちも色々あるんだよなぁと思ってしまう。

2巻。

常春の国・ニカヤへの訪問。姉妹仲良く出来ないのか、国を良くするには。

嵐を収めるには、より大きな嵐になって飲み込むしかない。

成長し、お飾りの人形では無くなっていくアデールと反対に、姉妹の亀裂、夫との溝は広がっていく。

この巻での中盤、エタン視点での語りに読者でエタンを好きな人多そうだなぁと思いました。彼は最後にふらっと消えてしまいそうなんですよね。

妾腹の子、破滅思考、女王の影。

そんな彼がアデールをあたたかな光として見ているのが、いいよね……。

3巻。

戦争の火種、明らかになる秘密、立ち込める暗雲にどう立ち向かうのか。怒涛の勢いで展開される最終巻。

登場人物紹介に先の展開が書いてあってショック。あらすじに書いてあるのかな……?

この巻は夫・グレンが遂に爆発したのが怖かったです。アデールを愛しているが故に行き過ぎた行動をとり、温度差を感じる度に不安定になっていましたが、今回はやり過ぎで、私もアデールは逃げるべきだと思った。

土壇場で女王となったアデールの行く末をハラハラしながら見守りました。

スピンオフである「ベアトリス~」があまり刺さらなかったのですが、「廃墟~」を踏まえると新たな発見もありそうです。

アデールが兄弟統治を願った背景も分かりましたし。

3月のシリーズ新作も楽しみです!

●電子版全3冊

「愚かなるドードー」「雪降らすカナリア」「女王の鳥籠」

3巻にエタン、グレンの短編を収録。

オレンジ文庫版全2冊(電子版を加筆修正)

「王女の帰還」「女王の戴冠」

上巻にミリアム、ジルダの短編を収録。

本編ネタバレ

グレンって、王の素質を持つアデールと夫婦としての相性は良くないよね……。初恋のグレンには悪いけれど。

革命が無かったら、チャンスがあったと思うのですが。

一方で、アデールは廃墟から助け出してくれたエタンに早々に好意の一端があったと思う。姉王女の恋人と知ってショックを受け、彼への気持ちは芽吹く前に止まったのかなと。

相応しくないからと逃げるエタンが幸せを掴めて良かった。